正統な地方の都市

今治から福山に向かうバスはしまなみ街道を走っていた。
イヤホンからはバッハの無伴奏チェロ組曲が聞こえていた。

窓の外に広がる瀬戸内の海やそこに浮かぶ島々を眺めながら、まるで映画のワンシーンのようだと思った。もしかしたらどこかでそういうシーンを観たのかもしれない。けど、出張とはいえ、松山でいくらかの旅情を感じていたことや、向かっている先が尾道だったこと、あるいは濱口監督がオスカーにノミネートされたというニュースが、僕をことさら映画のワンシーンのように感じさせていたのだと思う。

松山市駅を起点とした旧市街は、コロナの拡大によって少しずつ、しかしずいぶん多くの店がシャッターを下ろしたという。それでも、侘しさが漂うJRの駅前を見るにつけ、この松山の街は正統な地方の都市だと思った。旧市街に比して、旧国鉄の駅前が寂しいというのは、名誉ある地方の都市の証なのだと思う。

正統な地方の都市。
中央に対する地方、ではない都市。中央から自立した都市。
大都市を上目遣いで見つめない街。街が、自分の足許を見ている街。

分かり難いことかもしれない。
それはたとえば、地域のスーパーマーケットに行けば地のものが並び、街中の料理屋に行けばそれらの食材を使った、手抜かりのない料理が供される。日々の暮らしに必要なものが過不足なく手に入る。消費と暮らしが直結している。もしかしたら分かり難いのは、きれい事過ぎるのかもしれない。青臭いのかもしれない。

JRの松山駅とその周辺は待望の再開発が計画されているという。
わずか半日の滞在者が言うことではないのは解ってる。もちろん、地域の期待に水を差すつもりだってない。けど、もしかしたら、どこかでみた地方都市の風景になってしまうのかも知れない、と少し心配しいる。

今度は旅行で行こう。(できれば早めに)

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