マキさんのこと

ロシアがウクライナに侵攻し、チェルノブイリ原発を制圧したという。
侵攻の理由も、原発を真っ先に制圧した理由も、帝政というもの/ことを机上でしか知らない我が国民にプーチン大統領の真意を知る術はないし、ましてや中学で早々に世界史の学習を放棄した僕においてはなおのことだ。

チェルノブイリ原発事故の後ではあったけど、資源の乏しい我が国で原発がまだ夢のエネルギーとされていた学生時代、僕は電気事業連合会が主催する原発ツアーに参加した。リクルートが企画や催行を請け負っていたそのツアーは、学生たちに原子力発電やそれに付随する原燃サイクルの素晴らしさを啓蒙するものだった。当時、駅などで配布されていたフリーペーパーでそのツアーを知った僕は、持て余した時間を埋められると意気込んで申し込んだのだった。

「E2ツアー」と呼ばれたそのツアーには、観光バス1台分ほどの大学生が集まり、何度かにわたり浜岡原発やむつ小川原開発の計画地を見学した。ご褒美には、周辺の観光地を巡ったりお土産をいただけるという、なかなかよく考えられた旅程だった。

そんな、なかば電力各社による洗脳合宿のようなツアーにおいて、僕はいくつかのグループ(ほかの参加者は例外なく複数人で申し込んでいた)と仲良くなった。一人で参加したにも関わらず友達ができたのは、夢のエネルギーのおかげではなく、マメなH君が中継ハブとなって、いくつもの大学に分かれたグループを取り持ってくれたからだろう。

次第に集まる頻度は減り、最後に集まってからかれこれ10年は経つかも知れない。あの時、僕らは国際結婚し、結婚相手の故郷に向けて発つことになったMさんを壮行するために渋谷に集ったのだった。

ユニークな感性と考えをもった彼女が国際結婚をしたのは、むしろ当然の成り行きとさえ感じたほどだった。その結婚相手はウクライナの人で、そして彼女らが向かった先は首都のキエフだった。

プーチン大統領の真意など知らなくてもいい。
彼女らの平穏を願うばかりだ。

PAGE TOP